ロータリーミキサーの魅力に迫る
ロータリーミキサーには不思議な魅力があります。
決してDJミキサーとして多機能というわけではありませんし、未来的というわけでもありません。しかし、「魅了される」という表現が適切かは分かりませんが、一度ハマると抜け出せなくなる甘い罠がそこにあります。
ロータリーミキサーの魅力は言葉で簡単に説明できるものではありませんが、今回は「ロータリーミキサーの魅力とは一体なんなのか?」を考え、文章にしてみたいと思います。
音質なのか?デザインなのか?希少性なのか?
音質が良いと思う人、デザインが良いと思う人、ツマミを回す感覚が良いと思う人など、ロータリーミキサーの良さを感じるポイントは様々だと思います。
音質でいえば、ロータリーミキサーは内部のパーツにこだわっていて、アナログ回路を使用したミキサーが多く、個性のある音が特徴と言えます。
もちろん縦型のフェーダーミキサーがパーツにこだわっていないというわけではありませんが、ロータリーミキサーはハンドメイドのメーカーがほとんどであるため、細かい所までパーツを選定して組み上げており、音が良いと感じることが多いのです。
また、意外と多くのメーカーが存在していて、選ぶ機種によって個性が全く違うので自分に合う機種を探す楽しさもあります。
現役のロータリーミキサーメーカー(A to Z)
- Alpha Recording System
- AlphaTheta
- Bozak (Audio For The Soul)
- Can Electric
- Compact Disco Soundsystem
- Condesa Electronics
- E&S
- Ecler
- Formula Sound
- Headliner LA
- Isonoe
- MasterSounds
- NEA Music Inside
- Omnitronic
- Resør Electronics
- SOA BEM
- Subzero
- SuperStereo
- TPI Sound
- Union Audio
- Varia Instruments
上記以外にもまだまだ、たくさんのロータリーミキサーメーカーが存在すると思います。
デザイン面で言えば、ロータリーポットや、アイソレーター、VUメーターがあったりと、古めかしさの中に新鮮さがあり、インテリアとしても非常に映えます。
メーカーによって様々ですが、フェイスプレートの色や、サイドの木材、電源など、パーツをある程度自分で選択出来ることも愛着が湧く部分です。
電気系統に詳しい上級者の場合、自分でカスタマイズを行うような人もいて、掲示板、SNS等で活発に情報交換が行われています。
ディスクリート構成のミキサーのカスタマイズは容易ではありませんが、例えばUREIなどのIC(集積回路)で構成されているミキサーなら比較的容易とされているため、オペアンプの変更や、電源ユニットの交換、EQやパンの除去など、音質をグレードアップするために試行錯誤してる人がいたりします。
ほとんどのメーカーは少人数で運営されていて、多くても年に100台程度しか作れないので、希少価値が高いことも、特別感を押し上げている要因だと思われます。
歴史的背景
商業用DJミキサーの始まりはロータリーミキサーでした。
Francis Grasso、Nicky Siano、Larry Levan、Frankie Knuckles、Ron Hardyなど、ディスコやハウスミュージック黎明期のレジェンドと呼ばれるDJたちが一様にロータリーミキサーを巧みに操作してフロアを盛り上げてきました。
そのような歴史的な憧憬、時を超えたつながりを求める部分もあり、とくにハウスミュージックのDJにとって、ロータリーミキサーは特別な感情を抱くものなのかもしれません。
昨今のマーケット状況
ロータリーミキサー再評価の流れを作ったのはE&SのDJR400であることに異論を挟む余地はありません。
従来のミキサーと比べサイズダウンしてコンパクトにまとめられ、持ち運びが容易になったこと、アイソレーターがミキサーにビルトインしたことなどでヒットし、DJR400発売以降、世界各地から新興メーカーが誕生し、卓上型のコンパクトミキサーが発売されています。
近年のレコードやシンセなどのアナログ文化への再評価の流れも後押しとなり、ゆっくりながらもロータリーミキサーシーンは成長しているように感じられます。
現状はまだ一部の人に受けているだけでマーケット規模も小さいでしょう。 しかし、SNS等を拝見していると話題になることが増えてきおり、若い世代のインフルエンサーが使い始めるなど、何かをきっかけに大いに盛り上がる可能性を秘めています。
ロータリーミキサーの音の変化について
ロータリーミキサーを通すことによってどのような変化があるのでしょう?操作面は考えず、ミキサーを通した際の音質面のみにフォーカスして考えると以下のような項目が考えられます。
1.周波数バランス
分かりやすい部分でいえば、周波数バランスがあると思います。
例えば、低域が強調されていて迫力を感じるものだったり、高域が強調されていて現代的に聴こえるものだったり、中域が強調されていてパンチが感じられるものなどなど、リスナーの好みが最も分かれるポイントではないでしょうか?
2.解像度
解像度が高いと音の輪郭がハッキリしていて、リバーブのテールや細かい音の変化まで感じることが出来ます。
ヴィンテージのミキサーなどはパーツが経年劣化していて解像度が下がってしまってるケースがあり、パーツを新しいものに交換することによって蘇ることがあります。
UREIやBOZAKなどのヴィンテージミキサーを購入する際によく言われる「定期的なメンテナンスが必要」というのは、故障を直すという意味もありますが、音質劣化を防ぐという意味合いもあります。
3.倍音付加の量(サチュレーション、色付けなどとも言われる)
使用パーツや構成(ディスクリートかICか)、真空管の使用、オペアンプやトランスの種類、アナログかデジタルなど、様々な条件の組み合わせにより倍音の分布や付加量が変化します。
個人的には、
ディスクリート>IC
真空管使用>不使用
アナログ>デジタル
という具合に変化が色濃く感じられます。
4.オリジナルトラックからグルーヴの変化量
これはDJ的な観点になりますが、トラックがオリジナルのグルーヴから変化する機種が存在します。
体感では全体の50%ぐらいのロータリーミキサーが通すだけでグルーヴが変化します。
グルーヴが変化しない機種に都合の悪いことは特にありません。しかし、グルーヴが変化する機種には、「踊れるグルーヴに変化」するものと、「踊れないグルーヴに変化」するものがありますので、ダイレクトにダンスフロアの反応に影響を与えてしまいます。
これを逆手に取って、ロータリーミキサーをトラック制作に生かす方法もあります。
「踊れるグルーヴに変化」するミキサーであれば、100%クオンタイズされたトラックや、平坦な打ち込みで面白みに欠けるトラックをミキサーに通して、グルーヴを出すというトリックがあります。
このトリックの注意点としては、「踊れないグルーヴに変化」するミキサーに通してしまうと、さらに踊れないトラックになってしまうということです。
5.EQとアイソレーター
EQとアイソレーターは、各メーカーによって調整された周波数やEQのタイプによって印象は異なります。
ここでもグルーヴを変化させてしまうEQやアイソレーターが存在することに留意する必要があります。
6.相互作用
上記に挙げたようなポイントが複合的に絡み合い、最終的にロータリーミキサーの音の個性が生まれます。
それをリスナーが好みの音か、気持ちの良い音か、踊れる音になっているかなどを感覚的に判断してロータリーミキサーに魅かれる部分があるのでしょう。
サミング、縦フェーダーとの違い
サミング、つまり複数の音が混ざった時のまとまり具合が語られることもあります。
ボリュームカーブの違い、解像度、サチュレーション具合、グルーブの変化の有無、さらには音量を突っ込んだ時に起こるアナログ・コンプレッションによって、音の混ざり方に差が出ることは想像できます。
これらは、縦フェーダーとロータリーフェーダーの形状で音の違いが発生するわけではありません。
もし、2つの機器のパーツが全く同じであったと仮定した場合、フェーダーの形状がロータリーであっても、縦フェーダーであっても出てくるサウンドに違いはありません。
例えば、Mastersoundsには縦フェーダーのモデルがありますし、PLAYdifferentlyのModel1やAllen & HeathのXone92やXone96のようにロータリーミキサーでなくても、色づき音質が変化する縦フェーダーのミキサーがあり、高い評価を受けています。
しかし、操作するのが人間である以上、人の動作の特性のようなものが関係してきます。
つまりは人間工学的な考えで、操作する動きが心地良いか、そうではないかです。人の関節、手の動き方からして、フェーダーを縦に上下する動作より、ロータリーを捻る動作の方が楽で心地良いということです。
この心地よさがフェーダーを操作するものに取って、より音との一体感を感じさせる要因となりミックスに微妙な変化を生じさせます。
ロータリーミキサーに機能を追加するとしたら
現代的なロータリーミキサーには、EQ、アイソレーター、センド&リターンは標準的に備わっています。
中には色々な機能を持った機種もあります。
機能を追加することで音質が悪くなる可能性はありますが、ここでは「あると便利かもしれない」追加機能について考えてみます。
1.周波数可変のアイソレーター
Rane MP2015はアイソレーターの周波数を変更することが可能です。
Rane MP2015はフルデジタルなので周波数可変に特に問題は起きませんが、アナログミキサーの場合は周波数可変を付けると音質が悪くなるという噂もあります。
2.アイソレーターのバイパス機能
Condesa Carmen Vにはアイソレーターをバイパスする機能が付いています。
バイパスをすることでよりピュアな音質を得ることが出来るため、DJ以外にも活用出来る用途が広がります。
3.トゥルーバイパスが出来るビルトインエフェクター
基本的にロータリーミキサーでエフェクターを使いたい時は、別途好みのエフェクターを用意してセンド&リターンで接続しています。
エフェクターを内蔵している機種があっても面白いかもしれません。
トゥルーバイパスがあれば使わない時は音質変化を最小限に抑えることが出来ます。
4.オーディオインターフェース機能(DJソフトとの連携)
SuperStreo DN-78 IIや、Rane MP2015がオーディオインターフェース機能を持っています。
DJソフトやBeatport Linkなどのストリーミングサービスとの連携もアリかもしれません。
5.Linear PSU(リニア電源)
これは多くのメーカーがすでに採用しておりますが、音質にかなりの違いが出るのでマストな機能だと言えます。
UREIとBozakの音の違い
UREIとオリジナルBozakの違いを考えてみます。
存在するロータリーミキサーのほとんどがUREI 1620とBozak CMA10-2DLを参考にして作られていると言われています。
それほど完成度が高く、影響力の強いミキサーですが、その違いはどこにあるのでしょうか?
回路構成としてUREIはIC(集積回路)、Bozakはディスクリートとなっています。
基本的にオーディオの世界ではディスクリートの方が音が良いと言われているのですが、UREIは奇跡的なパーツの組み合わせからハウスミュージックに最適な音質のロータリーミキサーになったと言われています。
UREIの方がクセがなくストレートな出音で、Bozakの方が倍音成分が多く付加され、少し色の濃い音に感じられます。
UREIはトラックのグルーヴを変化させません。
一方、Bozakはグルーヴを変化させますが、踊れる音に変化させるミキサーです。
しかし、例えば今までDJM900Nexusなどの定番DJミキサーを使って練習していた人が、急にBozakを使うとグルーヴの違いから上手くミックス出来なくて驚くはずです。
急にプレイしても違和感なくプレイ出来るのはUREIの方でしょう。
そのような部分が関係しているかどうかはわかりませんが、HIPHOPが流行し、スクラッチに対応したクロスフェーダー付きのミキサーが発売されるまで、UREI 1620は長い間、DJミキサーのデファクト・スタンダードとして存在していました。
最後に
音質で選ぶ、見た目で選ぶ、機能性で選ぶ、人気で選ぶ、何を基準に選んだとしても満足させてくれる不思議な魅力がロータリーミキサーにはあります。
当然ながら、誰にとってもベストなロータリーミキサーというのは存在しません。
自分自身にとって最高のミキサーが、他の人にとっても最高のミキサーとは限らないからです。
全員が同じ価値観、同じ好みだったら退屈でしょう。
だからこそ、自分が好きになったロータリーミキサーには自信を持って良いと思います。
他の人の評価を気にする必要はありません。
自分が好きなミキサーが自分にとってベスト、それが唯一の真実です。
ロータリーミキサーの魅力について考えてみましたが、いかがでしたでしょうか?