ロータリーミキサーの位相とDJへの影響

 

過去に位相が反転して出力されるロータリーミキサーがあると当サイトの「X」アカウントでポストしていました。

しかし、これは確認不足だったと言わざるを得ません。

今回、一機種ずつ本格的に位相を調べてみると、もっと予想外の興味深いことが判明しました。

今回のトピックはかなりマニア向けな内容です。

途中疲れたらいつでも離脱してください。笑

このような話は知らなくても良いプレイのDJは出来ますし、DJプレイにどのくらい影響を及ぼすかと言われれば、あったとしても10%ぐらいでしょう。

ただ、その10%を探求したい方にはプラスになる内容かもしれません。

 

位相とは何か

 

まずは音楽における「位相」とは何かをざっくりとご説明します。

音は周期的に変動する現象であり、それらの変動は波形として視覚化できます。

位相はその波形がどの位置にあるかを示すための指標です。

位相を英語では「phase」と言いますが、シンセやエフェクターなどでよく聞く、フェイザー、フェイズモジュレーション、コーラスなどは位相をズラす事を応用した音響効果ですね。

360度を1周期として表すことができます。

2つの波形を重ね合わせた時、「位相が90度ズレている」などと位相の差を表現できます。

波形が真逆になっている場合は180度のズレと言えます。

 

位相が90度ズレた状態

 

位相が180度ズレた状態

 

位相には「正相」と「逆相」の概念があります。

位相は波形として視覚化出来るとお話しましたが、波形には「山(プラス)」と「谷(マイナス)」があり、波や振動の位相がどのように配置されているかを「正相」と「逆相」で表すことが出来ます。

 

  1. 正相(In-phase):

    • 正相とは、複数の波や振動が同じ方向に進行し、同じタイミングで「山」や「谷」などが発生している状態を指します。
    • 例えば、二つの音波が同じ周期で振動し、同じタイミングで振幅が最大になる場合、これらの波は正相であると言います。波形が同じ方向に重なっているイメージです。
    • 正相の波が合成されると、振幅が増幅され、波が強調されることがあります。
  2. 逆相(Out-of-phase):

    • 逆相とは、複数の波や振動が逆向きに進行し、「山」と「谷」が逆のタイミングで発生している状態を指します。
    • 例えば、二つの音波が同じ周期で振動しているが、片方の波が「山」のときにもう片方が「谷」になっている場合、これらの波は逆相であると言います。波形が逆向きに重なっているイメージです。上記の図でいうと、位相が180度ズレた状態は逆相と言えます。
    • 逆相の波が合成されると、波同士が打ち消し合い、振幅が減衰することがあります。これを位相干渉と呼ぶことがあります。

 

正相と逆相は、音響の分野で重要であり、異なる音が同じ位相であるか、ズレているかどうかで音の響きに影響を与えます。

複数の楽器が同じ音を演奏する場合、位相が合っていると、その音は強化され、位相がずれていると、波が打ち消し合う可能性があります。

ヘッドホンなどにあるノイズ・キャンセリングもこれらを応用したものになります。

もっと詳しく知りたいかたはネットで「位相」に関するキーワードで検索してみてください。

 

各社ロータリーミキサー出力の位相

 

では、本題であるロータリーミキサーが出力する音の位相がどのようになっているのか見ていきましょう。

今回のテストでは当店にある各社ロータリーミキサーを細かく位相のチェックをしました。

先に結論から言いますと、全てのロータリーミキサーでPHONO(レコード)とLINE(CDJ)で、出力される位相が真逆となりました。

まさかPHONOとLINEで、出力される位相に違いがあるとは思わなかったため、かなり驚きました。

 

例えば、E&S DJR400であったり、MasterSounds Radius 4Vが位相が反転して出力されるっていうのは過去にLINE(CDJ)で確認済みでしたが、その時はPHONO(レコード)を使っては確認していませんでした。

PHONO(レコード)で確認していなかった理由として、レコード盤が制作される過程の何らかの処理が原因で、たまに位相が反転しているレコードがあるので、WAVファイルをCDJで再生して確認した方が、より正確な判定が出来るだろうと思っていたからです。

しかし、今回は全てのロータリーミキサーでLINE(CDJ)とPHONO(レコード)の両方の位相チェックを行ったことによって、まさかの違いに気づくことが出来ました。

E&S DJR400とMasterSounds Radius 4Vの例で言うと、位相が反転しているのはLINE(CDJ)であって、PHONO(レコード)では正しい位相で出力されているということでした。

 

今回のチェックでは、レコードと購入したWAVファイルで同じ曲を用意し、下記項目をあらかじめ確認したうえで行いました。

 

  • オリジナルのWAVが位相反転していないこと
  • レコード盤自体の位相が反転していないこと
  • CDJ本体の出力で位相が反転していないこと
  • オーディオインターフェースの入力で位相が反転していないこと
  • XLRケーブルなどケーブル各種で位相が反転していないこと

 

また、ロータリーミキサー各社は常にアップデートを行なっていますし、もしかしたらミキサーの個体差などがある可能性もありますので、あくまでも当店でのロータリーミキサーがこのような結果であったということをご留意ください。

 

それでは一つずつ見ていきましょう。

オリジナルのWAVと波形が同じ方向に揃っているなら「正相」となり、波形が逆になっている場合は「逆相」となります。

分かりやすいように波形を色分けして表示しています。

 

  • 一番上の黄色い波形はオリジナルのWAVファイル
  • 青色の波形は正相
  • 赤色の波形は逆相

 

正相の場合は波形の山と谷が揃っているのが分かります。

一方、逆相の場合は波形の山と谷が真逆になっていることが分かりますね。

 

MasterSounds Radius 4V

PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 逆相

E&S DJR400

PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 逆相

Bozak AR-4

PHONO (レコード) = 逆相
LINE(CDJ) = 正相

Varia Instruments RDM40

PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 逆相

Isonoe ISO420

Isonoe ISO420はアイソレーター、EQを個別にON/OFF切り替えが出来ます。

アイソレーター、EQ共にONでもOFFでも位相に影響することはなく、正相なら正相のまま、逆相なら逆相のままとなります。

PHONO (レコード)アイソレーターOFF = 逆相
PHONO (レコード)アイソレーターON = 逆相
PHONO (レコード)EQ ON = 逆相
LINE(CDJ)アイソレーターOFF = 正相
LINE(CDJ)アイソレーターON = 正相 ※画像省略しています
LINE(CDJ)アイソレーターON = 正相 ※画像省略しています

Condesa Carmen V

Condesa Carmen VはアイソレーターをON/OFF切り替えが出来ます。

Condesa Carmen VはアイソレーターをONにすると位相が反転する性質を持っています。

そのため、これはPHONO/LINE共通で、アイソレーターをONにすると正相なら逆相に、逆相なら正相に反転します。

PHONO (レコード)アイソレーターOFF = 正相
PHONO (レコード)アイソレーターON = 逆相
LINE(CDJ)アイソレーターOFF = 逆相
LINE(CDJ)アイソレーターON = 正相 ※画像省略しています

 

Rane MP2015

Rane MP2015はアイソレーターをON/OFF切り替えが出来ます。

アイソレーターはONでもOFFでも位相に影響することはなく、正相なら正相のまま、逆相なら逆相のままとなります。

PHONO (レコード)アイソレーターOFF = 逆相
PHONO (レコード)アイソレーターON = 逆相
LINE(CDJ)アイソレーターOFF = 正相
LINE(CDJ)アイソレーターON = 正相 ※画像省略しています

 

各社ロータリーミキサーの位相一覧表

 

ロータリーミキサー 位相一覧表
MasterSounds Radius 4V PHONO(レコード) 正相
MasterSounds Radius 4V LINE(CDJ) 逆相
E&S DJR400 PHONO(レコード) 正相
E&S DJR400 LINE(CDJ) 逆相
Bozak AR-4 PHONO(レコード) 逆相
Bozak AR-4 LINE(CDJ) 正相
Varia Instruments RDM40 PHONO(レコード) 正相
Varia Instruments RDM40 LINE(CDJ) 逆相
Isonoe ISO420 PHONO (レコード)アイソレーター / EQ OFF 逆相
Isonoe ISO420 PHONO(レコード)アイソレーター/ EQ ON 逆相
Isonoe ISO420 LINE(CDJ)アイソレーター / EQ OFF 正相
Isonoe ISO420 LINE(CDJ)アイソレーター/ EQ ON 正相
Condesa Carmen V PHONO (レコード)アイソレーター OFF 正相
Condesa Carmen V PHONO(レコード)アイソレーター ON 逆相
Condesa Carmen V LINE(CDJ)アイソレーター OFF 逆相
Condesa Carmen V LINE(CDJ)アイソレーター ON 正相
Rane MP2015 PHONO (レコード)アイソレーター OFF 逆相
Rane MP2015 PHONO(レコード)アイソレーター ON 逆相
Rane MP2015 LINE(CDJ)アイソレーター OFF 正相
Rane MP2015 LINE(CDJ)アイソレーター ON 正相

 

なぜ、PHONOとLINEの間で位相が反転するのか?

 

当店の全てのロータリーミキサーの位相でPHONOとLINEで真逆の結果が出たため、当初は筆者の環境や、電源など日本特有の環境が原因で反転している可能性を疑いました。

しかし、Youtubeで当店と同じロータリーミキサーの海外動画を確認してみたところ、同じように反転しているので、筆者の環境や日本の環境が原因で反転しているわけではなさそうです。

なぜ、PHONOとLINEのあいだで位相の反転が起こるのかについてはメーカー自身や技術者以外には明確な答えが出せそうにありません。

もし、これについて知っている有識者の方いらっしゃいましたら、ぜひ教えてくださいませ。

出来ることなら、メーカーにはPHONOとLINEともに正相に合わせて出力するように調整してほしいところですよね。

なお、当店でチェックしたメーカーのロータリーミキサーがPHONOとLINEのあいだで位相が反転しているのであって、全てのDJミキサーのPHONOとLINEで位相が反転しているわけではないのでご留意ください。

 

DJするうえで位相はどう関わってくる?

 

さて、ここからは実際にDJするうえで、位相はどう関わってくるのかお話したいと思います。

位相の反転で大きな影響が分かりやすいのは主に低音域になります。高音域に関しては高域になればなるほど、位相の反転の影響が分からなくなります。

低音域の位相の反転については、ある程度の訓練とコツを掴めば誰にでも知覚出来るものであり、けっしてオカルトのような話ではありません。

みなさんご存知の通りダンスミュージックは、キック(バスドラム)が非常に重要な要素になって来ますので、位相の影響を受けやすいわけですね。

位相が反対のモノがぶつかり合うと音が打ち消しあって、弱くこえたり気持ち悪く聞こえるようになるのはお話しましたが、実際に聞いてみると分かりやすいと思います。

 

一つは正相のミックス、もう一つは逆相のミックスを作ってみました。

ミックスは16小節をフェードイン/フェードアウトしただけになります。

 

 

耳で聴いただけでは判別出来ないかもしれませんが、身振り手振りでリズムを取ったり、ダンスしてリズムを感じることで違いがよく分かるようになります。

DJプレイ時の感覚としても、位相が合っているとピッチが合わせやすかったり、ビートがしっくりハマる感じがあります。

 

正相をミックスしたもの

逆相をミックスしたもの

 

使用した楽曲

Nils Hoffmann feat. Panama – Far Behind (Jeremy Olander Extended Mix)

 

DJ以外での位相が影響するシチュエーション

 

DJ以外で、位相が影響するかもしれないシチュエーションとして以下のようなものがあります。

 

レコードをWAVなどのデジタルアーカイブとして残す場合

 

音源には製作者の意図、意向が反映されていますので、レコードをデジタルアーカイブとして残す場合は基本的にはオリジナルと位相は合わせた方が良いですね。

逆相の音源は少し印象の違うものとなってしまいます。

一般リスナーには正相であろうが、逆相であろうが判別出来ないということもよく耳にしますが、そうであったとしてもオリジナルと位相を合わせて録音することをおすすめしたいです。

かんたんな解決策としてはDAWの位相反転機能やプラグインを使うことです。

上級者向けとしては、ミキサーに接続するメイン出力のバランスケーブル(XLRなど)を2番HOTを3番HOTに入れ替えたケーブルを特注で制作してもらうことです。

※通常、現代のオーディオ機器は2番HOT、3番COLDとなっています。これを入れ替え、2番COLD、3番HOTにすることで位相が反転して出力されます。

多少面倒ですが、録音時に正相の場合は通常のケーブル、逆相の場合は特注のケーブルと使い分ければ良いということです。

 

サンプリングして音楽制作をする場合

 

例えばレコードからサンプリングする場合、反転した位相のまま録音してしまうと、音が前に出て来なくなるなどの可能性があります。

ただ、原曲の位相が必ずしも正解とは限らず、他のトラックとの関係により位相を反転した方が良い結果となる場合もありますので、ミックス時に他の全てのトラックとの位相関係を確認する必要があります。

 

CDJとレコードを混ぜてDJする場合

 

LINE(CDJ)単体、PHONO(レコード)単体でプレイするときは、それぞれ独立した位相環境の中でプレイするので影響はありません。

しかし、LINE(CDJ)とPHONO(レコード)を合わせて、DJプレイする時じゃ位相環境がミックスされた状況になります。

そのため、シチュエーションによっては「なんかミックスがしっくり来ない」「ピッチが合わせづらい」など、違和感を感じることになるかもしれません。

違和感を感じるかもしれないシチュエーションは2つあります。

  1. 普段、Pioneer DJのDJMシリーズなどLINE(CDJ)とPHONO(レコード)で位相に違いがないミキサーで練習をし、本番で正相と逆相が混ざったミキサーを使う場合、またはその逆の状況の場合。
  2. 逆相のミキサーでレコードをデジタル化したWAVやmp3などのファイルと、物理的なレコードを混ぜてプレイする時(この場合、デジタル化したファイルは逆相となり、物理的なレコードは正相となる)

 

まとめ

 

今回のロータリーミキサーの位相チェックでは、予想に反する結果となり、大変興味深いものとなりました。

位相まで気にしながらDJプレイをする人は非常に稀ですが、前述したように位相がミックスに少しばかり影響を与えることは事実なので、知識の一つとしてストックしておくと良いと思います。

楽曲の波形の「山」と「谷」を合わせるように選曲してあげることでミックスが少し良く聴こえるようになります。

実際の現場のDJプレイでは位相についてそこまで気にする必要はないと思いますが、DJミックスを制作する時などに選曲のヒントとなるかもしれませんね。

次回はもっとライトなトピックにしたいと思います。笑

では、また!