※以前、当記事内でPHONO(レコード)出力の位相がLINEと真逆に反転していると掲載しておりましたが、その後の調査により、当店でテストに使用したレコード自体の位相が反転していることが分かりました。
そのため、PHONO(レコード)出力の位相結果を全て逆に掲載してしまっておりました。大変ご迷惑をお掛けしました。現在、記事全体は正しい情報に修正されております。全機種でPHONO(レコード)とLINE(CDJ)は同じ方向の位相関係となっております。
当記事のその他の箇所(元から逆相で出力される機種やアイソレーター使用時に逆相になる機種など)につきましても全て調べ直しましたが、こちらは問題はございませんでした。
【2024年8月24日 / 記事内容修正】
過去に位相が反転して出力されるロータリーミキサーがあると当サイトの「X」アカウントでポストしていました。
今回、一機種ずつ本格的に位相関係を調べてみると、興味深いことが判明しました。
今回のトピックはかなりマニア向けな内容です。
途中疲れたらいつでも離脱してください。笑
このような話は知らなくても良いプレイのDJは出来ますし、DJプレイにどのくらい影響を及ぼすかと言われれば、あったとしても10%ぐらいでしょう。
ただ、その10%を探求したい方にはプラスになる内容かもしれません。
位相とは何か
まずは音楽における「位相」とは何かをざっくりとご説明します。
音は周期的に変動する現象であり、それらの変動は波形として視覚化できます。
位相はその波形がどの位置にあるかを示すための指標です。
位相を英語では「phase」と言いますが、シンセやエフェクターなどでよく聞く、フェイザー、フェイズモジュレーション、コーラスなどは位相をズラす事を応用した音響効果ですね。
360度を1周期として表すことができます。
2つの波形を重ね合わせた時、「位相が90度ズレている」などと位相の差を表現できます。
波形が真逆になっている場合は180度のズレと言えます。
位相には「正相」と「逆相」の概念があります。
位相は波形として視覚化出来るとお話しましたが、波形には「山(プラス)」と「谷(マイナス)」があり、波や振動の位相がどのように配置されているかを「正相」と「逆相」で表すことが出来ます。
-
正相(In-phase):
- 正相とは、複数の波や振動が同じ方向に進行し、同じタイミングで「山」や「谷」などが発生している状態を指します。
- 例えば、二つの音波が同じ周期で振動し、同じタイミングで振幅が最大になる場合、これらの波は正相であると言います。波形が同じ方向に重なっているイメージです。
- 正相の波が合成されると、振幅が増幅され、波が強調されることがあります。
-
逆相(Out-of-phase):
- 逆相とは、複数の波や振動が逆向きに進行し、「山」と「谷」が逆のタイミングで発生している状態を指します。
- 例えば、二つの音波が同じ周期で振動しているが、片方の波が「山」のときにもう片方が「谷」になっている場合、これらの波は逆相であると言います。波形が逆向きに重なっているイメージです。上記の図でいうと、位相が180度ズレた状態は逆相と言えます。
- 逆相の波が合成されると、波同士が打ち消し合い、振幅が減衰することがあります。これを位相干渉と呼ぶことがあります。
正相と逆相は、音響の分野で重要であり、異なる音が同じ位相であるか、ズレているかどうかで音の響きに影響を与えます。
複数の楽器が同じ音を演奏する場合、位相が合っていると、その音は強化され、位相がずれていると、波が打ち消し合う可能性があります。
ヘッドホンなどにあるノイズ・キャンセリングもこれらを応用したものになります。
もっと詳しく知りたいかたはネットで「位相」に関するキーワードで検索してみてください。
各社ロータリーミキサー出力の位相
では、本題であるロータリーミキサーが出力する音の位相がどのようになっているのか見ていきましょう。
今回のテストでは当店にある各社ロータリーミキサーを細かく位相のチェックをしました。
先に結論から言いますと、全てのロータリーミキサーでPHONO(レコード)とLINE(CDJ)で、出力される位相が真逆となりました。
※その後の調査により、各ミキサーともPHONO(レコード)とLINE(CDJ)は同じ方向の位相関係だと分かりました。
今回のチェックでは、レコードと購入したWAVファイルで同じ曲を用意し、下記項目をあらかじめ確認したうえで行いました。
- オリジナルのWAVが位相反転していないこと
- レコード盤自体の位相が反転していないこと
- CDJ本体の出力で位相が反転していないこと
- オーディオインターフェースの入力で位相が反転していないこと
- XLRケーブルなどケーブル各種で位相が反転していないこと
また、ロータリーミキサー各社は常にアップデートを行なっていますし、もしかしたらミキサーの個体差などがある可能性もありますので、あくまでも当店でのロータリーミキサーでのテスト結果であるということをご留意ください。
それでは一つずつ見ていきましょう。
オリジナルのWAVと波形が同じ方向に揃っているなら「正相」となり、波形が逆になっている場合は「逆相」となります。
分かりやすいように波形を色分けして表示しています。
- 黄色い波形はオリジナルのWAVファイル
- 青色の波形は正相
- 赤色の波形は逆相
正相の場合は波形の山と谷が揃っているのが分かります。
一方、逆相の場合は波形の山と谷が真逆になっていることが分かりますね。
Pioneer DJ DJM-450
PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 正相
MasterSounds Radius 4V
PHONO (レコード) = 逆相
LINE(CDJ) = 逆相
E&S DJR400
PHONO (レコード) = 逆相
LINE(CDJ) = 逆相
Bozak AR-4
PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 正相
Varia Instruments RDM40
PHONO (レコード) = 逆相
LINE(CDJ) = 逆相
Isonoe ISO420
Isonoe ISO420はアイソレーター、EQを個別にON/OFF切り替えが出来ます。
アイソレーター、EQ共にONでもOFFでも位相に影響することはなく、正相のままとなります。
PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 正相
アイソレーターON = 正相
※一部画像省略
Condesa Carmen V
Condesa Carmen VはアイソレーターをON/OFF切り替えが出来ます。
Condesa Carmen VはアイソレーターをONにすると位相が反転する性質を持っています。
そのため、PHONO/LINE共通でアイソレーターをONにすると位相が反転します。
PHONO (レコード)= 逆相
LINE(CDJ)= 逆相
アイソレーターON = 正相
Rane MP2015
Rane MP2015はアイソレーターをON/OFF切り替えが出来ます。
アイソレーター、EQ共にONでもOFFでも位相に影響することはなく、正相のままとなります。
PHONO (レコード) = 正相
LINE(CDJ) = 正相
アイソレーター / EQ ON = 正相
※一部画像省略
各社ロータリーミキサーの位相一覧表
ロータリーミキサー 位相一覧表 | ||
---|---|---|
MasterSounds Radius 4V | PHONO(レコード) | 逆相 |
MasterSounds Radius 4V | LINE(CDJ) | 逆相 |
E&S DJR400 | PHONO(レコード) | 逆相 |
E&S DJR400 | LINE(CDJ) | 逆相 |
Bozak AR-4 | PHONO(レコード) | 正相 |
Bozak AR-4 | LINE(CDJ) | 正相 |
Varia Instruments RDM40 | PHONO(レコード) | 逆相 |
Varia Instruments RDM40 | LINE(CDJ) | 逆相 |
Isonoe ISO420 | PHONO(レコード) | 正相 |
Isonoe ISO420 | LINE(CDJ) | 正相 |
Condesa Carmen V | PHONO (レコード) | 逆相※アイソレーターON時は正相 |
Condesa Carmen V | LINE(CDJ) |
逆相※アイソレーターON時は正相 |
Rane MP2015 | PHONO (レコード) | 正相 |
Rane MP2015 | LINE(CDJ) | 正相 |
なぜ、位相が反転するのか?
一部のロータリーミキサーで逆相になる結果が出たため、当初は当店の環境や、電源など日本特有の環境が原因で反転している可能性を疑いました。
しかし、Youtubeで同じロータリーミキサーの海外の動画を確認してみたところ、同じように反転しているので、当店の環境や日本の環境が原因で反転しているわけではなさそうです。
出来ることなら、各メーカーには正相に合わせて出力するように調整してほしいところですよね。
なお、当店でチェックした一部のロータリーミキサーの位相が反転しているのであって、ミキサーの個体差などがある可能性もありますのでご留意ください。
DJするうえで位相はどう関わってくる?
さて、ここからは実際にDJするうえで、位相はどう関わってくるのかお話したいと思います。
位相の反転で大きな影響が分かりやすいのは主に低音域になります。高音域に関しては高域になればなるほど、位相の反転の影響が分からなくなります。
低音域の位相の反転については、ある程度の訓練とコツを掴めば誰にでも知覚出来るものであり、けっしてオカルトのような話ではありません。
みなさんご存知の通りダンスミュージックは、キック(バスドラム)が非常に重要な要素になって来ますので、位相の影響を受けやすいわけですね。
位相が反対のモノがぶつかり合うと音が打ち消しあって、弱くこえたり気持ち悪く聞こえるようになるのはお話しましたが、実際に聞いてみると分かりやすいと思います。
一つは正相のミックス、もう一つは逆相のミックスを作ってみました。
ミックスは16小節をフェードイン/フェードアウトしただけになります。
耳で聴いただけでは判別出来ないかもしれませんが、身振り手振りでリズムを取ったり、ダンスしてリズムを感じることで違いがよく分かるようになります。
DJプレイ時の感覚としても、位相が合っているとピッチが合わせやすかったり、ビートがしっくりハマる感じがあります。
正相をミックスしたもの
逆相をミックスしたもの
使用した楽曲
Nils Hoffmann feat. Panama – Far Behind (Jeremy Olander Extended Mix)
DJ以外での位相が影響するシチュエーション
DJ以外で、位相が影響するかもしれないシチュエーションとして以下のようなものがあります。
レコードをWAVなどのデジタルアーカイブとして残す場合
音源には製作者の意図、意向が反映されていますので、レコードをデジタルアーカイブとして残す場合は基本的にはオリジナルと位相は合わせた方が良いですね。
逆相の音源は少し印象の違うものとなってしまいます。
一般リスナーには正相であろうが、逆相であろうが判別出来ないということもよく耳にしますが、そうであったとしてもオリジナルと位相を合わせて録音することをおすすめしたいです。
かんたんな解決策としてはDAWの位相反転機能やプラグインを使うことです。
上級者向けとしては、ミキサーに接続するメイン出力のバランスケーブル(XLRなど)を2番HOTを3番HOTに入れ替えたケーブルを特注で制作してもらうことです。
※通常、現代のオーディオ機器は2番HOT、3番COLDとなっています。これを入れ替え、2番COLD、3番HOTにすることで位相が反転して出力されます。
多少面倒ですが、逆相のミキサーの場合は特注のケーブルを使えば良いということです。
サンプリングして音楽制作をする場合
例えばレコードからサンプリングする場合、反転した位相のまま録音してしまうと、音が前に出て来なくなるなどの可能性があります。
ただ、原曲の位相が必ずしも正解とは限らず、他のトラックとの関係により位相を反転した方が良い結果となる場合もありますので、ミックス時に他の全てのトラックとの位相関係を確認する必要があります。
まとめ
今回のロータリーミキサーの位相チェックでは、大変興味深いものとなりました。
位相まで気にしながらDJプレイをする人は非常に稀ですが、前述したように位相がミックスに少しばかり影響を与えることは事実なので、知識の一つとしてストックしておくと良いと思います。
楽曲の波形の「山」と「谷」を合わせるように選曲してあげることでミックスが少し良く聴こえるようになります。
実際の現場のDJプレイでは位相についてそこまで気にする必要はないと思いますが、DJミックスを制作する時などに選曲のヒントとなるかもしれませんね。
次回はもっとライトなトピックにしたいと思います。笑
では、また!