様々なメーカーからロータリーミキサーが発売されていますが、それぞれのロータリーミキサーには得意な音の傾向(ジャンル)があると考えています。
微々たる差ではありますが、ある曲をプレイした時に、ロータリーミキサーAではとても気持ち良く聴こえていたのに、ロータリーミキサーBではイマイチ乗らないみたいな感じです。
さっそく実験してみた
人によって聴こえ方、感じ方は違いますので、全員が同じような印象にはならないかもしれませんが、実験結果をお伝えしたいと思います。
より違いを感じることが出来ると思いますので、耳だけで聴くのではなく、ぜひ踊りながら全身で聴いてみてください。
テストにあたり、レコード音源から2つのロータリーミキサーでテクノとハウスを録音した後、メータープラグインを使ってラウドネスレベルをなるべく揃えるように調整し、320kbpsのmp3で書き出しました。
試聴はフラットな特性のヘッドホンと、プラグインでフラットに周波数補正したスピーカーで行いました。
まずはテクノから。
E&S DJR400(テクノ)
Mastersounds Radius 4V (テクノ)
E&S DJR400はオールラウンダーで結構なんでもいけるタイプなので、十分イイ音で鳴ってますが、Mastersounds Radius 4Vではタイトな音に加えて疾走感(前のめり感)と重厚さが増し、よりテクノっぽさが出ていると思いませんか?
E&S DJR400(ハウス)
Mastersounds Radius 4V (ハウス)
次にハウスで比べみましょう。
E&S DJR400では、ハウスの跳ねるような躍動感がうまく出ていてとても気持ちの良いグルーヴ です。
一方、Mastersounds Radius Radius 4V では重たく、跳ねるような感じが消されてしまっている印象です。
テクノの時と違って、長所を活かした結果にはなっていないように思えます。
音楽のどの部分にフォーカスして聴くかは人によって違いはありますし、リスニング環境にも左右されることなので、もし逆の印象を持ったとしても問題ありません。
同じ曲でもミキサーによって聴こえ方に違いが発生するというのが重要なポイントです。
同じ曲でも聴こえ方が違うのはなぜ
では、なぜ同じ曲でもロータリーミキサーによって聴こえ方に違いが生まれるのか?
例えば以下のようなものが考えられます。
周波数特性
完全にフラットな周波数特性のミキサー というものはおそらく存在せず、だいたいは多少なりとも凸凹しているものです。
ローが強調されていたり、ハイが強調されていたりといった具合です。
また、人の可聴帯域は20Hzから20,000Hzと言われていますが、例えば、メーカーによっては10Hzから50,000Hzのように可聴帯域を超える再生能力を有するミキサーもあるわけです。
音楽のジャンルというのは、同じようなドラムの音色だったり、楽器、シンセといった使用されているサウンドや、ミキシングの共通点から似たような周波数分布を持っていることが多いです。
そう考えると、楽曲(ジャンル)が持っている周波数にピタッとマッチするミキサーもあれば、相性の悪い組み合わせがあるのも不思議ではありません。
ロータリーミキサーのカラー
音響機器の一つの特徴として音のカラーリングがあります。
色付け、サチュレーション(飽和感)、倍音付加などと言われるもので、アナログ回路を通すことで自然と知覚できるか出来ないかぐらいの歪みが発生し、音に厚みが加わります。
メーカーによって、使用しているパーツや、考え方、好みが違うため、なるべく色を加えないようにしているメーカーもあれば、積極的に色を加えているメーカーもあります。
どちらが優れているということではなくテイストの問題であり、人によって好みは違います。
楽曲制作時に実機、プラグインかかわらず、サチュレーションを加えることはよくありますので、楽曲によって色の濃い曲もあれば、透明感のあるクリーンな曲もあります。
例えば元から色の濃い曲に、色付けが濃いミキサーを通すと、飽和感が強くなり過ぎて、重苦しく踊りづらいサウンドになったりしますし、反対にクリーンな楽曲を色付けが濃いミキサーに通すことによって魅力が倍増することがあったりもします。
グルーヴの変化
様々な電気回路を通りますので、その過程で音のグルーヴ (ノリ)が変化することがあります。
「グルーヴが変化するミキサー」と「変化しないミキサー」がありますが、グルーヴが変化するミキサーでは、変化が起こることで曲のノリが良くなったり、反対に踊れない曲になってしまうことがあります。
その変化の度合いもミキサーによってさまざまで、ことごとく踊れない曲になってしまうミキサーもあれば、ほぼほぼノリが良くなるミキサーもあります。
音の立ち上がりの速さ(アタック感)
音の立ち上がりの速さというのでしょうか、アタック感のしっかりした音のミキサーもあれば、アタックが削れてモッサリした音のミキサーもあります。
モッサリしていると必ずしも良くないということではなくて、楽曲によってはハマることも。
とはいえ、アタック感のしっかりした音のミキサーの方が多くのジャンルに対応できるとは思います。
各ロータリーミキサーの得意な音の傾向
ここからは、各ロータリーミキサーの得意な音の傾向(ジャンル)を考えたいと思います。
まず始めに、どのミキサーもハイエンドであり、どんな曲でも非常に良い音で鳴ります。
あくまで、その中でも「得意な音の傾向は?」という探究であり、一部の曲で聴き比べた実験であることをお伝えしておきます。
冒頭の実験と同じ手順で、様々なジャンルの曲を音量レベルを合わせて聴き比べました。
Mastersounds Radius 4V
テクノ系に強い印象です。テクノ、ミニマル、プログレッシブ(メロディックテクノ)といったジャンルで力を発揮します。
なお、通常の「Radius」と、真空管を搭載している「Radius 4V」では音のキャラクター自体が違うため、また違った印象になるかもしれません。
どちらかというと生音系はあまり得意ではない印象です。
Varia Instruments RDM40
こちらのミキサーはどの曲であってもある程度の点数を出すオールランダー系ですが、とくにバレアリック系や清涼感のあるものは非常に相性がイイです。
Isonoe ISO420
ISO420では徹底的に歪みをなくしたクリアな音質のAll Transitor回路と、ほんのり色付けるJFET回路の2種類のミキサーが存在しますが、それぞれ音の質感、グルーヴが少し異なります。
当店のミキサーはAll Transitorバージョンとなります。
良い音は良く鳴り、悪い音は悪いまま鳴るという、入力された音がそのまま出ていくような感じがあります。
コンプで固めた曲や硬質な曲は、音が硬くなりすぎて疲れるので、ダイナミクスのある音や、柔らかい音、60年代、70年代など古いレコードに強い印象です。
その他には、解像度が高いのでシンセが空間に広がるような音もよく映えます。
Rane MP2015
唯一どのジャンルでも大きな差が生じず安定した再生が望めます。
あえて言うならテクノ、テックハウス、エレクトロハウスなど、エレクトロニックミュージックの方が得意かもしれません。
Bozak AR-4
音の立ち上がりが早い方ではないので、鋭い音よりも角の丸まったような音が合うのではないでしょうか。
ハウス系、特にLo-Fiハウス(ビートダウン)が得意です。
テクノ系はあまり合わない印象です。
Condesa Carmen V
音の重心の位置が一段高くなったような感じで、スネア、クラップ音などがよく響きます。
ディスコ、ニューディスコ、Lo-Fiハウス(ビートダウン)やハウス系がよく合います。
E&S DJR400
なんでもうまく鳴りますが、ハウス系、ダンスクラシック、ジャズなどがよく合う印象です。
特に生音系に強いです。
まとめ
微々たる差ではありますが、ミキサーによって得意な曲の傾向を感じることが出来ました。
とはいえ、あくまで傾向であり、ミキサーの個体差もあると思いますので、気にするレベルではないと言えばその通りですね。
こういう捉え方もあるということで、今後、ロータリーミキサーを購入する時や、レンタルする時の参考になれば幸いです。
ロータリーミキサーは実際に試してみないと分からない部分も多かったりします。
例えば、EQやアイソレーターを使うとグルーヴが変化するものや、ボリュームフェーダーの位置で音質が変わるものもあれば、ほとんど変わらないものがあるなど。
また、普段パイオニアのDJMシリーズを使い慣れていて、Aのロータリーミキサーでプレイしたらうまく出来たのに、Bのロータリーミキサーをプレイしたら激ムズだったなんてことはよくある話です。
今回、実験してみたように自分が普段プレイする曲とミキサーの相性が合う合わないも、少なからず関係しているのかもしれませんね。